シャボン玉のお散歩

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東京ステーションギャラリー『没後40年 幻の画家 不染鉄展』

東京ステーションギャラリーで開催されている『没後40年 幻の画家 不染鉄展』に行ってきました。

日曜午後でしたが、混雑は酷くなく、落ち着いてゆっくりと鑑賞できました。

不染鉄は、第1回帝展で初入選し、京都市立絵画専門学校を首席で卒業したにも関わらず、戦後は画壇を離れ、鳥瞰図と細密画を合わせた独創的な世界観で絵を描きました。

東京出身ですが、伊豆大島や奈良などで生活し、奈良を終の棲家とした人です。

「芸術はすべて心である。芸術修行とは心を磨くことである。」を信条とし、「いい人になりたい。」をモットーに美しい絵を描こうと努めていました。

図録の表紙にもなっている《山海図絵(伊豆の追憶)》は、富士山が左右対称のアシメトリーになっていて、富士山の前には太平洋が広がり、灯台や漁村、漁船とともにお魚も泳いでいます。一方、富士山の奥には、日本海が広がって、その暗さと荒波が表現されているという、実際にはない想像の世界が描かれた一種独特の構図です。

《海》は、海、海の生き物と人の営みが共存しているという、不染の考えに基づく構図となっており、イカやカニ、サメから小魚まで種々の海の生き物が凹凸のあるエンボス加工のように、筆と絵の具で描かれています。

《夢殿》は、小雨の中たたずむ静かな夢殿を描いたものです。

よく見ると、2層の基壇を線でつながないことで、設計図のような平面性を脱して、立体感がよく出ています。

昭和初期に奈良に住んでいたので、当時の鄙びた田舎の風情をたくさん絵に残しています。

《思出之記 田圃》という絵巻には薬師寺周辺の村の様子が繊細な筆遣いで描かれています。当時の様子と現在はずいぶんと変わってはいますが、奈良という土地が今でも持ち続けている空気、風土感というものが感じられる一品です。

同じく絵巻で《思出之記 海邊》は、岩の表現は宋元の水墨画のような趣で、水面の波の様子は、一遍聖絵と同様の描き方です。現代の生活(昭和初期の生活)が水墨画巻として表現されているのは圧巻です。

 

面白いことに、絵の中に文章がいっぱい書かれていていました。《古い自転車》には、額装部分にもぎっしりと文章が書かれていました。絵を手に取って読みたくなってしまいます。ショップに色紙サイズがあったら、欲しかったです。

 個人的には、《南海図》を見ていると、幼い頃の家族旅行で、船が大島の岡田港についたときの光景が甦ってきて、懐かしくなりました。

 展示の終わりに不染鉄の写真があって、柔和な線を描く画家はどんな方なんだろうと想像していましたが、優しいそのまなざしと柔和な笑顔の翁となった画家の写真は思ったとおりで、こちらも微笑んでしまいそうでした。

不染鉄の絵には、どこか郷愁を誘い、懐かしさと優しさで包みこむ、温かさを感じました。

 

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