シャボン玉のお散歩

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源信ー地獄極楽への扉ー

奈良国立博物館で開催中の《一〇〇〇年忌特別展 源信ー地獄極楽への扉ー》に行ってきました。

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今年は、往生要集の著者として有名な「恵心僧都源信の1000回忌にあたります。大和国の出身者である源信にまつわる展覧会を奈良国立博物館が開催するというのはステキです。

奈良は暑かったです・・・。チャイナの方々のみならず欧米系の観光客も大勢、奈良公園で楽しんでいました。

さて、源信展です。

現在は、後期開催中。タイトル通り、平安中期から始まる地獄と極楽のイメージについて盛りだくさんの展示です。

 「往生要集」をはじめとする写本などが多数出展されています。

千年前の人たちがテキストに臨んで書き写していたことを思うと、得も言われぬ感慨に襲われます。彼らの往生極楽に対する切実な想い・・・。

源信は、宋の国に自分の著作を送って論評を求めていたそう。千年前に大陸と書物のやりとりをして、教えを求めたりしていたのですね。この学究心、信仰心には頭が下がります。そう考えると、今の時代は便利ですね。アメリカ大統領のつぶやきを世界中で読んだりできるんですからね。

絵画類としては、「融通念仏縁起 上」「地獄草紙」「病草紙」「餓鬼草紙」などが良かったです。

「融通念仏縁起」は、日本中世史研究の網野善彦さんの書物などによく出ている、「異類異形」の人たちの姿が描かれています。これは、現物を初めて目にしました。色鮮やかな世界です。

「餓鬼草紙」には、餓鬼道の凄まじさと同時に、12世紀頃の日本人の生活も活写されています。餓鬼道は凄まじいのですが、なんというか・・・、餓鬼の姿が、ユーモラスで。排便中の女性の傍にいる餓鬼(伺便餓鬼)はなんか楽しそうなのに、傍で爺さんがウ○コしようとすると「ゲッ!」というような顔したりしてます。餓鬼も食べたいウ○コと食べたくないのがあるんですかね。

 

「地獄草紙」は、往生要集から始まる地獄のイメージのビジュアルです。こんな世界に落とされたらたまりませんよ!無限に悲惨な世界が続くんですから。

もちろん地獄のイメージは、その他にもたくさん展示されています。中世の人たちにとっては、リアルな世界だったんだと思います。だって日常的に悲惨な、「病草紙」や「九相図」で描かれる情況を目にしていたんでしょうから。

 日本における極楽浄土の究極の実現といえば、京都宇治の平等院でしょう。平等院関係の展示もいくつかありました。圧巻は「平等院鳳凰堂九品来迎図壁扉画模写」(掛軸形式)です。ほぼ原寸大で、壁画を模写した昭和29~31年度の作品なので、剥落・破損・落書きもそのままに移した現状模写なんです。実物と見まがうばかりの圧倒的再現性です。

極楽往生の実践的グッズの展示もあります。「山越阿弥陀図」です。小さめの三面屏風ですが、山を越して阿弥陀様の神々しい姿が描かれ、その御手には、五色の糸が残っています。臨終者は枕辺にこの屏風を立て、阿弥陀様の手から続く五色の糸を握って念仏しながら旅立っていったのです。

中世の日本人の死生観の一端に触れることができる展覧会です。

日本人の抱く地獄極楽のイメージは、源信に始まり、それは今にまで続いているんだと感じます。時代が変わろうとも、日本人の死生観の通奏低音となっているのではないでしょうか。

 

www.narahaku.go.jp

 おまけ(◎o◎)

博物館出たら、この子は池に入っていました。暑かったんですかね、やっぱり。

この子にとって、この瞬間が極楽なのかもしれませぬ。

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