シャボン玉のお散歩

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興福寺中金堂再建記念特別展 運慶

東京国立博物館 特別展「運慶」に行ってきました。

夕方でしたが、かなり混雑していました。運慶作品をこれだけまとめてみることができる機会は滅多にありません。

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運慶でまっさきに思い出すのは、東大寺南大門の国宝「金剛力士立像」ですが、さすがにこれは大きくて博物館にくるはずがありません。子供のころに仰ぎ見たときの迫力は忘れられません。

さて、「運慶」展といいながら、すべての作品が、運慶自らの手によるものではなく、近現代のように彫刻家が一人で彫像を彫りだして作品を発表する、という時代ではないので、運慶が主催する工房で制作されたものでしょう。ただしこれは、作品の価値を些かも貶めるものではありません。

運慶自身優れた造形家で、優れた統率力で慶派一門を束ねて、統一された類まれなる造形を実現しているのは、本当に素晴らしいことです。

この展覧会では、運慶をはじめ、父・康慶、子・湛慶らの作品も展示されています。

運慶の人物表現は、観る者の心を鷲掴みにするような凄味があります。

国宝《無著菩薩立像》・《世親菩薩立像》は、法相宗の祖師であるインドのAsangaとVsubandhuの兄弟の像です。等身よりも一回り以上も大きい体躯にも圧倒されますが、空を体得し世界の無常をみつめるかのような眼差しに、こちらの心の底まで見透かされてしまう感じがします。

大勢の観覧者がいるので、展示会場はそれなりのザワザワ感なのですが、この像に対峙すると、その瞬間から、静謐な空間が自分の周りに出現する感覚に襲われます。

 ・・・世親菩薩は、林修先生に少し似ていると思ったりして。(^_^)

 国宝《八大童子立像》は、かわいらしい童子像です。鮮やかな色彩と躍動感。ちょっとしたフィギュアのようです。幼児の「ぽちゃ」感が伝わってきて、かわいいです。

重要文化財大日如来坐像》は、運慶作の可能性があるとされる仏像です。

重文指定する際に、内部構造が詳しく調査され、内部は金箔貼りで彩色された五輪塔が納められています。

この《大日如来坐像》には、ちょっとしたエピソードがあります。

ある人が「サラリーマンにも買えるくらいの値段」で古美術商から手に入れ、しかも、その後、真如苑にオークションで14億円で落札されたとは、まさに驚きです。(朝日新聞夕刊2017年9月20日)

これこそ、ラッキーで、掘り出し物と言わざる終えません。また、オークションで海外流出しそうなところを真如苑が落札したことは、「よくぞ、日本国内に留めてくれた」と、有難いことです。

重要文化財聖観音菩薩立像》 は、明治期の修理時に彩色もされ直したようで、色鮮やかです。

像の左腰から垂れる衣は、付け根から折れていたものを接着剤で貼りつけて修理してあるようですが、これは一体、どういう修復なのかというほどのひどさ。茶色の接着剤の痕がはっきり。また接合面も隙間が空いていてひどいものです。どんな時期に誰がやったものやら。きちんとした修復がなされることを願っています。 

 三次元造形である彫刻は、実物を見た方がいいですね。展示ケースなしで180度ぐるりと鑑賞できる展示が多いので、いろいろな方向から、部分や全体を楽しめます。

運慶のいきいきとした人物表現、その後に受け継がれていかなかったその造形をぜひ身近で体感してみて下さい。

運慶の前にも後にも、これほどの仏像彫刻を作りえた人はいないのですから。

   

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