シャボン玉のお散歩

アート・読書案内・旅など日々の徒然を綴ります。

上野アーティストプロジェクト「現代の写実―映像を超えて」

こんにちは。写実とは程遠い、ぐるぐるです。

東京都美術館で開催中の現代作家の写実絵画の展覧会に行ってきました。

実は、写実絵画というものを生で見たことはあまりありません。以前ブログにアップした池田学さんは例外的な体験です。 biobio33.hatenablog.com

何人もの写実絵画の作家さんの作品に触れるというのは、今回が初めてのことです。

フランドル絵画の静物画を髣髴とさせる小森隼人。写真では味わうことができないほどの磁器の質感、果物のみずみずしさ・・・、本物としか言いようがありません。描かれる光は、日本の古い洋館の中に暗く柔らかく射し込み、日本人ならどこか懐かしく感じる明かりです。画題は、静物画や肖像画という西洋画の典型的なものですが、その表現(ポーズや構図)は、現代的です。

《苺 青い花(個人蔵)》

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塩谷亮《月華(個人蔵)》では、花の幻想性と合わせて、滑らかで肌理細かい肌の質感、髪の一本一本にまで命が通う艶感で表される女性像は、エロスの聖性を表現することに成功しています。

また、母が幼子を抱く姿からは、聖母子を連想させ、母の抱く手の指先まで命が輝き、絵全体から、母性を醸し出しています。

《煌(ホキ美術館蔵)》

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他に、日本画の写実絵画もありました。 

小田野尚之は、日本画で自らの懐かしい心象風景を私たちの前に示してくれます。彼が緑青色で描く草原・田園の風景は、一見単簡に見えながらも高い技術力と表現力を感じさせます。

発電所跡(作家蔵)》

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岸田劉生だったと思いますが、「日本画では写実は表現できない」と言ったようですが、もし、小野田尚之の作品を観たら、どんな感想を持ったことでしょう。

元田久治の描き出す廃墟の光景は、 映画の中のワンシーンのようですが、そこには文明の儚さが圧倒的な細密さで描写されながら、静かなる空虚と孤独がリリシズムを奏でています。

《Foresight : Tokyo Skytree(作家蔵)》

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絵画は光の芸術です。光によって見せられる景色、空気を平面に写しこむ技術です。その意味で写真と同じかもしれません。正直言って、「写実なら写真でいいのでは」と思っている自分がいました。しかし、それは、誤りでした。 

絵画における写実とは、作家の見た(感じた・考えた)世界を、作家の持てる技によって現実以上にリアルに表現する(しうる)ことなのではないかと思います。

それが、観る者に、感動を与えるのでしょう。そして同時に、 写実絵画は、得も言われぬ「不安感」をも与えます。これは写真を見ているときには感じないものです。

それは、絵画でしか表現しえない現実の「真実」を抉り出しているからなのかもしれません。 

会期2018年1月6日まで

www.tobikan.jp