シャボン玉のお散歩

アート・読書案内・旅など日々の徒然を綴ります。

泉屋博古館分館『木島櫻谷 近代動物画の冒険』

動物好きのぐるぐるです。

泉屋博古館『木島櫻谷 近代動物画の冒険』展のブロガー内覧会に行ってきました。

泉屋博古館学芸課長の実方葉子さんによるギャラリートークを堪能しました。

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木島櫻谷(このしま・おうこく)は大正・昭和に活躍した日本画家。往時はかなりの人気画家だった人ですが、現在ではその名も歴史に埋もれてしまっているようです。

人気画家であった故に、かなり程度の低い贋作も多数出回っており、そのせいで評価が不当に低くなっているとのお話もありました。

今回の展示品は、その95%が初公開とのこと。これは、ぜひ見ておきたい!

タイトル通り、櫻谷が描いた動物画が小品から大作まで堪能できます。

櫻谷は、晩年の洋画家・浅井忠とも交流があったようで、その絵画表現には、まるでペインティングナイフで色づけしたかのような油画的表現も見られます。自分の表現を求める貪欲な好奇心の塊だったのでしょう。

確かに、その技量は相当のもので、たゆまぬ研究に裏打ちされたものです。

櫻谷の創作過程を窺い知ることのできる、写生も数多く展示されています。

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なお、中央に見えるのは大正11年の「京都市立紀年動物園優待券」。これは、動物園の年間パスポートのようなもので、櫻谷の遺品整理の研究課程で発見されました。現在の動物園の人たちも当時このような制度があったことはご存じなかったそうです。

年間パスを買ってまで、動物写生をしていたんですね。鶏を飼っていた若冲や猫を貰い受けてまで写生した栖鳳を思い出します。因みに、ぐるぐるも絵のモデルにするために昔、チャボ飼っていました。

顔料研究も熱心だったようです。500種にも及ぶ岩絵具が遺されているそうです。

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遺された青色顔料が詰められたトランク

 

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《 寒月 》大正元(1912)年

一見するとモノトーンのように見えるのですが、顔料の研究をしたことで、多様で微妙な色彩を表す趣の深い世界を実現していると感じました。墨一色のモノトーンに見えながら、焼群青を用いたメタリックなグラデーションによる奥深い表現の竹林です。

 

他にも、大画面作品が多いのが見どころです。

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 《 初夏・晩秋 》 明治36(1903)年

 

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《 獅子虎図屏風 》明治37(1904)年

 

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奥に見えるのは、《 かりくら 》明治43(1910)年 の作品です。二面の軸に3騎の武者が狩りをする図で、おそらく鎌倉期の武者と思います。大画面で迫力があります。

馬は薄い輪郭線と陰影で表現され、こちらに迫ってきます。秋草も抱一的な表現ですが、風にたなびき近代的な躍動感あります。

この絵の前に立つと、草を分け疾駆する騎馬の音、風の音が静寂の中に響き渡ってくるのを感じました。

なお、この《 かりくら 》はかなりの劣化状態で発見され、2017年に修復されたばかりの作品です。

櫻谷の動物は、数多くの写生に裏打ちされた「リアル」な表現となっていますが、生きている動物を写真におさめたというようなものではありません。その表情は、完全に人間の表情であり、知性的な光をたたえた眼差しをしています。 櫻谷も、近代的自我の確立期に生きた人間として様々な模索や苦悩をしたのだと思います。そのような軌跡が、このような独特な(人によっては「カワイイ」と映る)動物の表情に投影されているのではないでしょうか。また、そういう近代的動物表現は、単純な擬人化を超え、現在でも我々の心に訴えかけるものがあるように思います。多様な解釈の可能性を秘めているように感じました。

以前、日曜美術館で、漱石が「寒月」の狐をあげつらって批判していた、ということを放送していましたが、近代そのものと格闘した漱石にとって、軽々と近代的自我を絵画に表現しえた(ように見えた)櫻谷に腹立たしさを感じたのかもしれませんね。

しかし、何十点も展示される文展で、櫻谷のこの絵を殊更批評した漱石は、よっぽど櫻谷のことを気にしていたんだろうなぁとも、同時に思いました。

 

今回の、PartⅠ『木島櫻谷 近代動物画の冒険』は、会期4月8日まで。

4月14日(土)からは、PartⅡ『木島櫻谷の「四季連作屏風」+近代花鳥図屏風尽し』が始まるようです。

PartⅡにも足を運びたいと思います!!

 

※掲載写真は、美術館より特別に撮影の許可を頂いています。

www.sen-oku.or.jp