損保ジャパン日本興亜美術館『生誕120年 東郷青児展』に行ってきました。
会期始めの平日ということもあり、空いていました。
東郷青児の絵は、損保ジャパン日本興亜美術館で本物をはじめて見るまでは、幼い頃にお土産でいただくお菓子の包装紙の「きれいなお姉さんの絵」というイメージしかありませんでした。
いつもは収蔵品数点の展示ですが、今秋の損保ジャパン日本興亜美術館では、東郷青児の初期のころから晩年まで、個人コレクションも含め、全国から作品を集めた生誕120年を記念して回顧展が開かれています。また、雑誌の表紙も手掛けていたこともあり、当時の雑誌も展示されています。
初期の作品《パラソルさせる女(1916年)》は、キュビズムの影響が色濃く出ている作品で、あのお菓子の包装紙の絵とは程遠い作品でした。
その後、フランスに渡ってからの作品《サルタンバンク(1926年)》は、当時のフランスで流行していたアール・デコを取り入れている感じがしました。これ以降の作品は、アール・デコが随所に取り入れられているのではないかと思います。また、ピカソとの交流もあったことが絵からも感じ取ることができます。
フランスから帰国してからは、キュビズムの要素もあるけれど、幾何学的に表現された色合いもシンプルなデザイン性に優れた作品に変わったようです。
《超現実派の散歩(1929年)》は、人も家も月も幾何学的で、空中を散歩をしている様ですが、不安定な感じはなくバランスのとれた作品で、お菓子の包装紙の「きれいなお姉さんの絵」だけではなく、こんなポップな感じの絵も描いていたのだと、思わず見入ってしまいました。
1935年前後、藤田嗣治とともに百貨店の大装飾画に取り掛かり、泰西名画(西洋絵画風)調を取り入れ、広く大衆に受け入れらる女性画を描いていくようになります。百貨店の大装飾画は、まだ、あの「きれいなお姉さんの絵」から遠いイメージですが、作品《紫(1939年)》は、「きれいなお姉さんの絵」風美人画でした。
戦後になってからは、裸婦も復活し、大壁画にも挑戦していきます。
東郷の描く女性画は、抽象的なデザイン画のようでありながら、二次元平面に、奥行きのある立体表現を卓越した筆づかいで表現しています。女性の髪の毛の表現やしっとりとした肌の質感は見事というほかありません。
時にはキュビズムを、時にはアールデコを取り入れ、シックな色合いで、清らかな中に、どことなく憂いがあって官能的な美人画が描かれています。
作品《渇》のように、時には力強い女性も描いているのにハッとさせられます。
展示会場入り口に、評論家の植村鷹千代氏は「東郷様式」を次のように語っていると紹介されていました。
・誰にでもわかる大衆性
・モダンでロマンティックな優美で華麗な感覚と詩情
・油絵の表現技術に見られる職人的な完璧さと装飾性
すべてを見終えて、「確かに」と感じました。
会期11月12日まで